夫・妻で不登校の子への考え方が違う場合に【椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム #9】

椎名 雄一先生(一般社団法人日本心理療法協会代表理事)による、不登校のお子さまの保護者のかたより寄せられたお悩みにズバリお答えいただく『椎名先生の「不登校ライフ」カウンセリングルーム』。今回は、夫婦で不登校のお子さまへの向き合いかたや考えかたが合わず家庭内の雰囲気が悪くなっているというご相談に対して、椎名先生が視点や考えかたの切り替えを提案します。

この記事のポイント

    経験や感情の伴わない「きれいごと」だけで精神は育たない

    保護者からのご質問



    父親と母親とで不登校の子への向き合いかたや考えが合わず、家庭内がギスギスしています。子どもにとっても良くないと分かっているのに、どうしても感情的になってしまいます。下のきょうだいにも影響が出そうで心配です。



    椎名先生回答

    家のなかがギスギスしてしまうと、不登校のお子さんだけでなく下のきょうだいや保護者自身にも悪影響が出ます。疲れ切ってしまったり、大きなけんかが続いたりすることもありますね。まずは、そのようなときに考えておくとよいことをお伝えします。

    まず最初に、ご質問に答えていく前に前提となる大切なことを整理していきましょう。
    さて、子どもを育てるのに必要なことはなんでしょうか?

    「褒めること?」「笑顔?」「優しさ?」

    確かにそれらも必要なことですね。間違ってはいません。

    子どもが育つには、「怒られること」「孤独を経験すること」「認められないこと」「喪失感」などもとても重要なことです。理不尽さや苦しい経験のなかから、「それを変えたい」「自分がなんとかしたい」という思いが生まれ、そこから人生の方向性や使命感が育つこともよくあります。

    過酷さや理不尽さを知り、長期と短期の視点を得る。それらがバランスして成長する

    実際に私が聞いてきた例を挙げてみます。
    「ぼくの友人は家庭環境に恵まれていなかった。だから一緒に悲しい思いをたくさんした。だからこそぼくはそういう子が救われるような社会を作りたい」。
    「私はずっとひとりぼっちだと思っていた。家のなかにも居場所がなかった。だから私のことをわかってくれる先生と巡り会って本当にうれしかった。私もそういう人になりたいと思った」。

    過酷な状況、理不尽な状況のなかには「だからこそ、その状況をなんとかしたい」といった思いや、あえてその解決に向けて当事者として「私がそれをやろう」という使命感を持ったり、人生の意義となるようなことが潜んでいることがよくあるのです。

    また、他にも必要なことがあります。

    「学校に行けるかどうか?」や、「家のなかで聞き分けの良い子にしていられるかどうか?」といった短期的な視点に加えて、「社会人としてやっていけるのか?通用するのか?」という視点や、長い人生において「仲間を大事にした方が良い」とか、「自分自身の感情を大事にしよう」といった長期的な視点などがあるでしょう。

    そのたくさんの視点のバランスで、子どもは育っていきます。

    さて、本題に戻ります。冒頭の「家のなかがギスギスする」のはなぜでしょうか?

    それは家族それぞれが「正解はひとつだけ」という狭い前提を持っているからです。

    教育が持つ2つの側面は「知識の習得」と「精神の成長」

    家のなかでお子さんを笑顔にするのは、お母さんが上手かもしれない。でも、社会に通用する子に育てるにはお父さんが上手かもしれない。または、おじいちゃんが長期的な人生の視点を教えてくれるかもしれないし、おばあちゃんが「成績なんかより友だちを大事にするんだよ」と言ったことを教えてくれるかもしれない。そしてきょうだいが不登校だからこそ、下のお子さんが学ぶことがあるかもしれない。その全員が「子どもを育てるための一部分(パーツ)」を持ち寄っていると考えれば、むしろありがたい状況です。

    植物を育てるのに、太陽の光や水、土の栄養といったすべてが必要なのと同じで、子どもの育てかたにも、複数の要素がバランスを取ることで成り立ちます。それを、「太陽の光だけが大事なんだ!」「いや!水だ」と主張しあっていたらそれはギスギスしてしまうでしょう。「日差しと水と栄養のバランス、その連携に意味がある」と考えることができたならば、調和を取ろうとするはずです。

    不登校とは、お子さんや家族の人生のありかたをもう一度考え直す良い機会と考えることができます。
    たとえば不登校をきっかけに、夫婦が連携できるようになったり、きょうだいの関係が変わったり、より明確な進路が見えてくることもよくあります。教育とは「知識の習得」と「精神の成長」の2つの側面があります。それに対して、「知識の習得が遅れるから不登校は悪い」という発想は一面的です。なぜ、「不登校は精神の成長においてまたとない機会だ」ととらえることができないのでしょうか。

    それは「不登校の対策はこれしかない!他は間違いだ」という考えにとらわれているからです。
    先ほどの例で言い換えれば「植物が育つのは水のおかげだ!正解はそれだけだ!」と信じこんでいることと同じなのです。

    そのような固定観念を持つ保護者は夫婦で対立しやすく、教師や社会を敵に見てしまいがちです。「自分の正解以外を受け入れない」ことが、人を遠ざけてしまうのです。

    子育てによって多様な価値観に触れることが、保護者に学びと成長を促す

    不登校を経験したことで「心理カウンセラーになりたい」と言っている子がいます。その子は学校に行っていないために「大学入学が遅れてしまう。成績が悪い」と嘆いています。しかし、心理カウンセラーとは、人の心の痛みを扱うものです。だとしたら、自分自身が不登校で学校にも通えない実体験は「精神の成長」につながるのではないでしょうか。

    心理カウンセラーになるには「学校で教わる知識」と「相手の気持ちが深いところで理解できる精神の成長」が必要です。先に「精神の成長」を体験して、あとから「知識の習得」をする子は卒業が1年遅れたりしますが、それ自体はなんの弊害にもなりません。むしろ、しっかりと不登校の実体験から「精神の成長」をいま学んでおけば良いだけではないかと考えることができます。

    ギスギスした関係性のなかでは、「知識の習得」や「学歴」ばかりにこだわってしまうので、いま実体験していることをゴミ箱に捨てようとしてしまうでしょう。

    もし「正解は人の数だけある」「子育ては多様な価値観に触れること」だと考えを切り替えることができたなら、ギスギスしているという課題自体が保護者にとって「学び」や「成長」の機会になります。

    決めつけてしまう枠を手放すことから始めよう

    ですから、不登校対策はまず保護者自身の視点や考えかたの切り替えから始めるとよいでしょう。まずは「不登校=悪いこと」と決めつける枠を手放してみてください。お子さんは単に「学生」をしているのではなく、「人生を生きている」ことを、ぜひ忘れないでほしいと思います。

    プロフィール


    椎名 雄一

    1973年生まれ。千葉大学工学部情報工学科を卒業後、電気通信事業会社に入社。20代でうつ病を発症し、約10年間のひきこもりや自殺未遂を経験。その後、自身の経験を「今悩んでいる人」のために生かすべく心理カウンセラーに転身。一般社団法人日本心理療法協会の代表理事として活動し、心療内科のカウンセラーとして現場での支援方法を模索。企業研修や企業カウンセラーとしても活躍。
    近年では通信制高校を経営し、中高生や保護者との関わりを通じて若者支援に力を入れている。2021年には「不登校・ひきこもりから抜け出す7つのステップ」(学びリンク株式会社)を出版し、不登校やひきこもりで悩む中高生や保護者のために「オンライン保護者会」を立ち上げ、2000人を超える保護者と対話を続けている。現場の声を大切にした講演、カウンセリング、コミュニティ運営には定評がある。

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